cac-cac

二人の宝部屋

 「相変わらずすごいな」久しぶりに我が家にやって来た旧友が、靴を脱ぐなりつぶやいた。  玄関のすぐ隣に広がる吹抜の空間。趣味のカメラのために作った、我が家のギャラリーだ。クリームイエローの壁に、無垢メープル材の床。壁際の造作棚は、歴代のカメラやレンズを飾るためのオリジナル品だ。そして、壁に並んだ写真には、二階の窓からの光が静かに降り注いでいる。いい写真ばかりだろう、そう笑いかけると友人は、「これ、いいな」と一際大きな一枚を指差した。昨年嫁いだ、娘の晴れ姿だ。妻が一目で気に入り、わざわざ大きくプリントしてきたのだ。  「味気ない写真ばかり撮っていたお前がなぁ」。おいおい、失礼だな。でも確かに昔は、人から譲り受けたお古のカメラで、ただ何となく写真を撮っていただけだった。今のように熱心になったのは、そう、息子が産まれた時だ。  家族の成長を写真に残していきたいと、初めて自分で買った一台のフィルムカメラ。今は、棚の特等席で出番を待っているが、あの時

手にしたカメラの重みは、初めて息子を抱いた時と同じように、今でも触れるたび思い出せる。当時、夢中になって息子にカメラを向ける私を見て妻はよく言ったものだ。「この子が大きくなったら、ちゃんと見せてあげなくっちゃね」。それからというもの、家族の様々な表情を切り取ることが、私の生き甲斐となった。  妻が写真を見て思い出を振り返るなら、私はカメラに触れて当時を思い返す。このギャラリーにいるだけで、何十年もの思い出すべてが見渡せるんだ。そう語る私に、友人は「お前たち夫婦の宝部屋だな」と微笑んだ。  二度と訪れることのない時間と感情の記録。それは、確かに宝物と言えるかもしれないな。友の言葉をうれしく思いながら、私は、珈琲を運んできた妻に向けて、シャッターを切った。

  • 事例
  • ストーリー
  • 土地から探す
  • 家づくりの流れ
  • cac-cacブログ

このページのトップへ