リビングの脇に設けたバイクガレージ。ソファにどっかと座り、グラスを片手に自慢の愛車を眺める。造りつけた棚には、使い込んだ工具の数々。かすかに漂うオイルの匂い。仕事の疲れを癒してくれる、至福のひと時だ。 そもそも妻はLDKにバイクガレージを造ることには反対で、「食事する場所なのよ」と何度も言われたものだ。けれど、私はリビング脇にこだわった。家族を結んでくれる大切な「相棒」を、みんなのそばに置いておきたかったからだ。 昔から遊びに行くと言えばツーリングだった。そんな私に嫌気もささず、妻は「あの歌詞みたいだね」なんて、自分のヘルメットを片手にいつもにこやかについてきた。二人一緒にキレイな景色に感動したり、急な雨に降られて雨宿りをしたり。ケンカして乗るのか乗らないのか言い争ったこともある。今よりも安っぽいモデルだったけれど、二人の思い出は、バイクと共にあると言ってもいい。 子どもが生まれて、しばらく遠乗りから遠ざかっていたが、娘の中学入学を機に、念願の
新車を手に入れた。あの頃のように長距離とはいかなくとも、妻を乗せて走れるよう、後ろにはタンデムシート。二人でツーリングに出かけると、なんだか昔に返った気分になってくすぐったい。 最近は、息子が「キャブレターは…」なんて口を出すようになった。娘も「私も乗せて」と目をキラキラとさせている。バイク好きな私たちの子どもらしい、ちょっと誇らしげな瞬間だ。どうだ、LDKに造って良かっただろ?私の目配せに、妻は「しょうがないわね」とでも言うように、優しい笑みを浮かべた。 『週末は雲一つない晴れでしょう』テレビから天気予報が聞こえる。「風が気持ちいい季節になってきたわよね」妻の言葉を聞きながら、私は、ルートを思い描いていた。